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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)176号 判決

神戸市北区日の峰四丁目一八番一号

原告

久野真彦

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

小原一人

小田切敏夫

長谷川実

笛木秀一

主文

一  本件訴え中、原告がした特許出願(特願平七-二七九八六六号)が特許庁長官により特許法六四条一項に基づく出願公開されないことが不法行為であることの確認を求める請求、直ちに特許法六四条一項に基づいて右特許出願の出願公開をすることを求める請求及び右特許出願が出願公開されなかったことに関し、担当職員の刑事告発を含む包括的な調査を行い、該調査に基づいて国家公務員法による当該職員の処分を行うことを求める請求に係る部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨及び原因

別紙一記載のとおり

第二  本案前の申立て及びその理由

別紙二記載のとおり

第三  当裁判所の判断

一  請求の趣旨第一項について

1  本件訴えのうち、被告に対し原告の特許出願が特許庁長官により出願公開されないことが不法行為であることの確認を求める請求に係る部分は、特許庁長官の不作為が民法上の不法行為に該当することの確認を求める民事訴訟と解されるところ、右訴えにおける確認の対象は、特定の権利又は法律関係の存否ではなく、確認の訴えの対象となり得るものではないから、原告の右訴えは不適法である。また、右訴えを原告が被告に対して不法行為による損害賠償請求権を有することの確認を求める訴訟と解することができるとしても、原告は、被告に対して、給付訴訟を行うことができるから、それとは別に右のような確認訴訟について確認の利益を認めることはできず、したがって、右訴えは不適法である。

2  本件訴えのうち、被告に対し原告の特許出願の出願公開を求める請求に係る部分は、特許法六四条に基づいて特許庁長官が行うべき出願公開を求める抗告訴訟と解されるところ、右訴訟において、被告適格を有するのは右出願公開をなすべき行政庁であり(行政事件訴訟法三八条一項、一一条一項)、国に被告適格がないことは明らかであるから、原告の右訴えは不適法である。

二  請求の趣旨第二項について

1  本件訴えのうち、被告に対し原告の特許出願が出願公開されなかったことに関し、担当職員の刑事告発を含む包括的な調査を行い、右調査に基づいて国家公務員法による当該職員の処分を行うことを求める請求に係る部分は、結局のところ、原告の特許出願が出願公開されなかったことにつき責任のある特許庁職員に対する国家公務員法に基づく処分を求める抗告訴訟と解されるところ、右訴訟において、被告適格を有するのは右処分をなすべき行政庁であり(行政事件訴訟法三八条一項、一一条一項)、国に被告適格がないことは明らかであるから、原告の右訴えは不適法である。

また、右訴えのように、行政庁に対し一定の作為を求める抗告訴訟は、行政事件訴訟法に明文の規定がなく、三権分立の原則からして行政庁の第一次的判断権が尊重されるべきであることに照らせば、〈1〉行政庁が当該処分をなすべきことについて法律上覊束されていて、行政庁に自由裁量の余地が全く残されておらず、〈2〉事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要性が顕著であって、〈3〉他に適切な救済方法がない場合に限って許されるものと解すべきところ、本件において、前記訴えに関し、右のような事情が認められないことは明らかである。さらに、原告には、前記処分を求める法律上の利益も認められない。したがって、原告の右訴えは不適法である。

2  本件訴えのうち、被告に対し原告の特許出願が出願公開されなかったことに関し行政手続法八条による理由の提示及び同法九条による情報の提供を求める請求に係る部分は、求められる行為が、それにより直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものではなく、行政庁の「公権力の行使」とはいえないこと及び右訴えが行政庁ではなく国を被告としていることに照らすと、抗告訴訟ではなく、被告に対し作為を求める当事者訴訟であると解されるところ、本件において、原告が被告に対して、右のような作為を求める権利を有するものと認めるべき法的根拠はないから、原告の右請求には理由がない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)

別紙一

請求の趣旨

一、原告がした特許出願(平成7年特許願第279866号)が特許庁長官により特許法第六十四条第一項に基づく出願公開されない事が不法行為であることの確認を求めるとともに、直ちに特許法第六十四条第一項に基づいて同特許出願の出願公開をすることを求める。

二、前記特許出願の出願公開がなされなかった事に関し、担当職員の刑事告発を含む包括的な調査を行うとともに、該調査に基づいて国家公務員法による当該職貝の処分並びに行政手続法第八条及び第九条による理由の提示及び情報の提供を求める。

請求の原因

一、原告は、平成七年三月六日にした特許出願(出願番号平成7年特許願第70452号)及び同年八月一六日にした特許出願(出願番号平成7年特許願第231975号)に基づいて優先権主張をして同年十月四日に特許出願をした(出願番号平成7年特許願第279866号、以下「本件特許出願」という。)。

二、原告は、本件特許出願について平成八年六月六日に手続補正書二件(以下、「本件手続補正書」という。)を提出したところ、これら手続補正書二件いずれについても受理しない旨の処分書二通(発送日同年八月二十日発送番号024048及び024049)を受け取ったので、同年十月十九日にこれらの処分について行政不服審査法による異議申立てを行った。

三、原告は、前記処分が誤りであった旨の通知書(発送日同年十一月二十六日発送番号034314)及び手続補正指令書(発送日同年同月同日発送番号034313)を受け取ったので、前記通知書に従って前記処分書と前記手続補正指令書に従って作成した手続補正書とを同年同月七日に郵送し、特許庁に受け付けられた(受付番号29623802166)。

四、原告は、平成十年八月十六日に至っても本件出願について特許庁長官により特許法第六十四条第一項に基づく出願公開(以下、単に「出願公開」という。)がされないことから、同年同月十七日に特許庁に出向き確認するとともに翌日同庁総務課に問い合わせたところ、同年八月二十四日付の回答を書面(以下、「回答書」という)で得た。

五、本件特許出願について出願公開がされない事は、職務上の義務に違反し又は怠った結果原告に不利益を与えた不法行為であり、直ちに特許法第六十四条第一項に基づいて同特許出願の出願公開をすべきである。

六、さらに、本件特許出願の出願公開がなされなかった事に関し、担当職員の刑事告発を含む包括的な調査を行うとともに、該調査に基づいて国家公務員法による当該職員の処分並びに行政手続法第八条及び第九条による理由の提示及び情報の提供をすべきである。

1 回答書には、平成九年二月五日手続補正書の受理及び作業の失念により本件特許出願の出願公開がされなかった旨が記載されているが、平成十年一月三十一日に当該手続補正書は受領されていることから明らかなように回答書は理由の提示若しくは情報の提供としては不十分であり、また、通常書類等の受理は一ヶ月のところそれ以上に受理するのに時間が要した上に、特許出願はすべて出願公開が行われているのに対し、本件出願のみ長期にわたって出願公開がされなかったことは、単に作業の失念によるものとはいえず、むしろ故意による不作為である。

2 原告は、特許出願等の予告を兼ねて雑誌「トランジスタ技術 九月号」に特許出願(平成7年特許願第279866号)の内容の一部を掲載するとともに、本件出願についての簡単な資料を作成したが、この出願内容や本件出願の内容若しくは前記簡単な資料の内容に酷似し若しくは類似した製品のカタログが見つかっている。

3 例えば、前記簡単な資料のうち英文で作成したもののFIG3、FIG7、和文で作成したもののFIG6、本件特許出願の図20等に酷似し若しくは類似したものとして「カードリーダー」命名されたものがあり、原告の各特許出願(出願番号平成7年特許願第70452号、平成7年特許願第231975号、出願番号平成7年特許願第279866号)の内容に酷似し若しくは類似したものとして「スマートメディア」命名されたものがある(なお、この製品に関してインターネット上で「SSFDC」フォーラムなるものを作っているが、このメンバーの中に「カードリーダー」を製造し若しくは取扱っている者があるが、このフォーラムは宣伝広告を内容としたもの以外の内容についてはメンバー以外アクセスできないようになっている。)。

4 本件出願に関しいかなる内容の手続補正書を提出しようが原告の自由であるが、本件手続補正書が権利範囲を広げるのを目的とするものであり、原告は嫌がらせ等を受けていることから、本件特許出願の内容を盗用しようとし、最近ではベンチャービジネスのうちいわゆるハイテク関係ではその株式の上場時に異常な高額になることを鑑みると、詐欺事件、有価証券取引に関する法律等に違反し若しくはその他不正若しくは不公正な行為に基づく刑法犯罪が関与している疑いが強く、秘密保持義務等を含む国家公務員法違反の疑いが強い。

七、以上の次第で、本件特許出願について出願公開がされない事は、職務上の義務に違反し又は怠った結果原告に不利益を与えた不法行為を確認し、直ちに特許法第六十四条第一項に基づいて同特許出願の出願公開をするとともに、本件特許出願の出願公開がなされなかった事に関し、担当職員の刑事告発を含む包括的な調査を行うとともに、該調査に基づいて国家公務員法による当該職員の処分並びに行政手続法第八条及び第九条による理由の提示及び情報の提供を求める。

別紙二

第一 本案前の申立て

本件訴えを却下する

訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

第二 本案前の申立ての理由

一 請求の趣旨一項について

1 原告は、原告がした特許出願(平成七年特許願第二七九八六六号)について、特許法六四項一項に基づく出願公開がされないことが不法行為であるとの確認及び右特許出願を出願公開することを求めている。

2 しかし、右確認を求める請求については現存する紛争の直接的かつ抜本的な解決にならず、最も有効な手段とはいえず、確認の利益がないことは明らかである。

また、右出願公開を求める請求については、出願公開は特許庁長官において行うものであるから(特許法六四条一項)、被告国に被告適格はない。

二 請求の趣旨二項について

1 原告は、〈1〉右出願公開がなされなかったことについて調査を行うこと、〈2〉国家公務員法による担当職員の処分を行うこと、〈3〉行政手続法八条及び九条による理由の提示及び情報の提供をすることを求めている。

2(一) しかし、右〈1〉ないし〈3〉の請求は、いずれも行政事件訴訟法におけるいわゆる義務づけ訴訟に該当するものと解されるところ、このような訴訟は三権分立の建前から現行法のもとでは原則として許されないと解するのが相当であり、本件においてこれらを許容すべき法律上の根拠あるいは特段の事情が存しないことは明らかである。したがって、原告の右〈1〉ないし〈3〉の請求は、不適法であり却下を免れない。

(二) また、右〈1〉ないし〈3〉の請求は、右のとおり行政事件訴訟法における抗告訴訟の一類型としての義務づけ訴訟に該当するものと解されるから、行政処分権限を有しない被告国に被告適格がないことは明らかである。

(三)(1) さらに、右〈1〉の請求については、原告に対し、原告主張のような調査を求める権利を付与した法律上の根拠はないのであるから、右〈1〉の請求を求めることについて、原告には訴えの利益あるいは原告適格がないことは明らかである。

(2) また、右〈2〉の請求については、原告個人の権利に直接関係するものではなく、原告にそのような請求をする権利を付与した規定もないから、右〈2〉の請求を求めることについて、原告には訴えの利益あるいは原告適格がないことは明らかである(なお、国家公務員について懲戒の措置を求める訴えにつき、裁判権がないとした大阪地裁昭和三九年一月三一日判決(行裁例集一五巻一号一三二ページ)が存する。)。

(3) 次に、右〈3〉の請求のうち理由の提示を求める部分については、行政手続法八条は、行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合にその理由を提示することを行政庁に義務づけた規定であって、本件では特許庁長官は出願公開しないという拒否の処分をしたものではないから、本件は同条の場合に該当せず、原告には同条を根拠に右〈3〉の理由の提示を求める訴えの利益あるいは原告適格がない。また、右〈3〉の請求のうち情報の提供を求める部分については、行政手続法九条は、行政庁の一般的な努力義務を定めた訓示規定にすきないのであるから、原告には同条を根拠に右〈3〉の情報の提供を求める法律上の利益はないのであって、結局、原告には同部分について訴えの利益あるいは原告適格がない。

3 よって、原告の本訴請求は、いずれも不適法であり却下を免れない。

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